大村 謙二郎
本稿は、『都市住宅』No.13(1996)に記した原稿に若干の加筆・補正をおこなったものである。原題では、「都市計画から都市住宅へのアプローチの ためのブックガイド」としていたが、都市計画(といっても筆者にとってのなじみある分野に限られるが)一般へのブックガイドと読んでもらってもよいと考 え、上記のような表題とした。筆者の希望としては、これをベースとしながら、毎年、その年に刊行された注目される、広い意味での都市計画についてのブック ガイドを記していきたいと考えている。 都市計画の重要な目標は、都市に住む人々にとって安全で健康的で快適な住宅・居住環境をつくり、それをたゆまず維持・発展させていく点にあるといえる。ま た、都市を構成する物的環境要素の中でも最も大きな位置を占めているのは居住に関わる要素といえよう。かように都市計画と都市の住宅のあり様は密接な関係 を持っている。
近代的な都市計画のディスプリンが成立したのは19世紀末から20世紀初頭にかけてのことである。それは、まず、産業化の進展により急激な都市化に見舞 われ、悲惨な住宅問題が発生した西欧諸国において成立したことが示すように、近代都市計画は都市の住宅問題とやはり密接な関係を持っていたし、その後の展 開も住宅問題との対決の歴史の面を多分に持っていた。
さて、そのような都市計画の展開の歴史からいえば、都市住宅にアプローチしていく上では、都市計画も大きな役割を担うといえよう。そういった観点から、 都市計画から都市住宅へ向かうに際して、参考になりそうな文献を紹介しようというのが、この小文の意図である。断るまでもないことであるが、都市計画と いっても、その研究対象、方法論の違いによって専門分化は著しく、その度合いはさらに進展している。筆者の関心のおもむくところ、紹介できる領域はごく限 られているし、また筆者の読書傾向も偏っているので、以下に紹介するのは、そのようなバイアスを持ったブックガイドであるとご了解いただきたい。
1.基本書
都市計画のカバーする領域は多岐にわたっているが、それらを総合化し見通しの良い理解を与えてくれる標準的な教科書として以下のものを取り上げたい。
(1)日笠 端『都市計画 第3版』共立出版,1993(2)田村 明『現代都市読本』東洋経済新報社,1994
(3)都市計画教育研究会編『都市計画教科書 第2版』彰国社,1995
(4)ジョン・テトロー/アンソニー・ゴス著(伊藤滋・伊藤よしこ訳)『都市計画概説』 鹿島出版会,1975
(1)の文献は戦後の都市計画学術研究の第一線をリードされ、とりわけ、地区レベルの計画について学術、計画行政の両面で多大な貢献をされてきている著 者による標準的な教科書で、1977年の初版刊行以来、その後の変化を盛り込み改訂が加えられている。都市計画の広範な分野・事項を体系的に取り上げ、図 版、参考文献も多い。我が国の現行都市計画の仕組みを理解するために歴史的な位置づけ、諸外国との比較事項も盛り込まれている。
(2)の文献は長年、横浜市のまちづくりのトップとして手腕を発揮され、都市計画実務にも詳しい著者によるものである。読本の名が示すように、縦書きの 組みでこの分野の初学者にも平易な記述になっている。文献(1)が学生などを対象としたオーソドックスな教科書とすれば、こちらは社会人向けの色彩が強 く、地方自治体のまちづくりに参考となる。
工学系の都市計画といっても建築系、土木系、造園系と分かれていてすべての分野に通暁する事は至難のことである。(3)の文献は大学の各学系で都市計画 教育に携わっている人たちが研究会を組織して、分野に偏りなく標準的な都市計画の知識として伝授されるべき内容を盛り込むことを企図して編まれたものであ る。全体12章を22人が分担執筆している。若干の重複は避けられないが、現在の日本の都市計画教育の動向を知る点で便利な本である。
(4)の文献は長年、都市計画の実践に携わっている2人のイギリス人プランナーによるものである。20世紀の都市のあり方に大きな影響を与えた自動車交 通の問題を克服しいかに住みよい町をつくるか、という観点から、20世紀の都市計画を振り返りつつ、英米、北欧等の都市計画の事例をまじえた記述がなされ ている。原著の初版は1965年で取り扱われている都市開発の事例は新しいものではないが、英国風のプランナーの抑制のとれた都市計画のコモンセンスが示 された好著である。
都市計画を理解する上で有用なのは歴史的な流れの中で都市計画の展開と現在の位置を知ることであろう。そのような観点から以下のものを薦めたい。
(5)石田 頼房『日本近代都市計画の百年』自治体研究社
(6)ガリソン/アイスナー著(日笠端監訳、森村道美/土井幸平訳)『アーバンパターン』日本評論社,1975
(5)の文献はわが国の都市計画史研究の第一人者による、明治以降のおよそ百年間のわが国の近代都市計画の通史である。これを読めば、わが国の都市計画制度が諸外国からどのような影響を受けつつ発展してきたかについて歴史的な文脈の下によく理解できよう。
(6)の文献は英語圏における都市計画のクラシックテキストとしての評価が高いものである。訳書は、1966年の第2版を底本としている。特に、産業革 命以降の住宅環境の悪化に対して都市計画はいかに取り組んできたかという視点から記述されている。図版も多く、分かりやすい。絶版の可能性があり、図書館 で閲読されると良い。なお、第4版がペーパーバック版として1983年に刊行されている(Gallion/ Eisner, The Urban Pattern, 4th edition, Van Norstrand Reinhold, 1983)。
2.参考書
やや進んで、都市計画について学ぼうとする場合、あるいは折りにふれて参考にする文献として以下のものを挙げよう。
(7)川上 秀光他『新建築学大系16 都市計画』彰国社,1984
(8)土田 旭他『新建築学大系19 市街地整備計画』彰国社,1984
(9)延藤 安弘他『新建築学大系14 ハウジング』彰国社,1985
(10)住環境の計画編集委員会編『住環境の計画5 住環境を整備する』彰国社,1991
(11) レオナルド・ベネーヴォロ(佐野敬彦・林 寛治訳)『図説・都市の世界史 1-4』
相模書房、1983
(12)ノバート・ショウナワー(三村浩史監訳)『世界のすまい6000年』全3巻(①先都市時代の住居、②東洋の都市居住、③西洋の都市居住)彰国社,1985
(13)『都市・建築企画開発マニュアル’95』建築知識,1995
(14)アーバンフリンジ研究会+建築知識編『「都市近郊」土地利用事典(新装増補版)』建築知識,1995
文献(7)~(9)は建築系の研究者が中心となって編纂した新建築学大系のシリーズの本である。(7)は都市計画の基本的な概念としての密度についてや 都市基本計画の考え方などについて詳しく記されている。(8)は市街の環境を整備するという視点から、既成市街地からスプロール市街地までを対象として、 再開発、地区計画などの計画手法も含めて多面的に解説されており、日本の市街地が抱えている問題点を知ることができる。(9)はハウジングという従来の住 宅問題という枠組みを超える意図を持って企画された巻である。特に第1章の延藤によるイギリスのハウジングの展開の歴史は示唆に富む。
新建築学大系にはこのほか、広義の都市計画の観点から参考になる次のような巻がある。第15巻の「都市・建築政策」は都市計画制度、建築法についての記 述、第17巻の「都市設計」はアーバンデザインの思想、方法論などについて、第18巻の「集落計画」は都市を取り巻く都市近郊の土地利用や農山村・漁村の 集落計画について取り扱っている。
文献(10)は関西の住宅・都市計画の研究者が集まって編集した「住環境の計画」のシリーズの第5巻にあたるもので、住宅を取り巻く身近な環境の整備という、住宅政策と都市計画が密接に関わり合う論点を多面的に取り扱っている。
都市や住宅の歴史を知る上では、豊富な図版があると理解が得られやすい。そのような文献としてお薦めしたいのが(11),(12)の文献である。
(11)は建築を取り巻く環境という視点から都市の世界史を包括的に記述したもので、視覚的に都市の生成・発展をつかめることができその中での都市計画 の役割も理解できるようにしている。(12)は都市居住に焦点を絞った人類6000年の歴史である。著者のペン画による挿し絵が豊富に挿入されている。
都市計画は公共の関わる部分が大きく、実際の都市計画は様々な計画制度と密接に関わっている。社会経済状況の変化が激しい近年、制度の改定も頻繁に行わ れているし、必ずしも法律に基づかない各種要綱も都市計画行政の場面で多用されている。計画に関わる各種制度の全体や近年の動向を把握するのは専門家に とっても困難な点が多い。そういった点で、簡便にその概要や制度の背景、仕組みを知るのに役立つ文献として(13)、(14)をあげておく。全体を通読す るというより、必要に応じて知りたい箇所を参照する事典的な使い方が考えられる。
3.入門書・関連書
最近は、一般市民向けの新書などの形式で、まちづくりや土地問題に関連する本が数多く刊行されるようになってきている。そのいくつかを紹介しよう。いず れの著作も現在の都市問題やまちづくり歴史、現状について、興味深くかつ分かりやすく訴えかけている。記述は平易で読みやすいが、そこに示唆されている内 容は重要である。
(15)五十嵐 敬喜・小川 明雄『都市計画 利権の構図を超えて』岩波新書,1993
(16)伊藤 滋『提言・都市創造』晶文社,1996
(17)延藤 安弘『まちづくり読本』晶文社,1990
(18)大谷 幸夫編『都市にとって土地とは何か-まちづくりから土地問題を考える』筑摩書房,1988
(19)大野 輝之・レイコ・ハベ・エバンス『都市開発を考える』岩波新書,1992
(20)田村 明『まちづくりの発想』岩波新書,1987
文献(15)は、わが国の現行都市計画行政、制度が複雑化、硬直化し、市民にとって透明性を欠くようになっていることを鋭く批判し、都市計画の分権化の必要性を説いている。ポレミックな書である。
文献(16)はわが国都市計画の第一人者である著者が、一般市民向けに、できる限り都市計画の業界用度、専門用語を排して都市計画、都市計画家の果たす 役割について述べたものである。住み良い都市づくりに向けた魅力的なアイディアが示されており、都市計画家の仕事の重要性、責任の重さが伝えられている。
文献(17)は、日本17都市、海外2都市のまちづくりの現場をこまかく読み解きながら、住みよいまちづくりのためのヒントを提供している。この著者の目線はそこに住む人々と同一のところにあり、よりよき可能性を引き出そうとの姿勢が心地よい。
文献(18)は、バブル経済の下、地価の急騰が大きな問題となりだした時期に、これに憂慮した研究者、実務家が集まって研究会を組織し、都市計画の側か らの土地問題、住宅問題への処方箋を示したもの。この書を読めば、都市計画からみた計画規制の必要性についての共通感覚が理解できよう。
文献(19)は、バブル期に我が国で盛んに主張されるようになった、日本もアメリカにならって、大幅な規制緩和を行って都市開発を行うべきとの説に対し て、それが大いなる誤解であることをアメリカの都市開発の実例を下に具体的に批判を行っている。単純な高度利用論が必ずしも質の高い都市空間の形成につな がらないことを日米の具体例あげながら、説得力ある論旨で展開している。
戦後、大火で市街地が大きな被害を受けた長野県の飯田市が見事なリンゴ並木をいかに作り上げたかというエピソードで始まる文献(20)は、著者の横浜をはじめとする豊富なまちづくり実践をふまえたまちづくりの仕組みがわかりやすく説かれている。
市民に向けた、都市計画の歴史に関わる興味深い以下のような著作が近年、数多く刊行されている。直接、都市住宅の問題を扱っているものではないとしても、なぜ現在の都市問題が生じているのかなどについて背景を理解する上でも役立つ情報が盛り込まれている。
(21)石田 頼房編『未完の東京計画』筑摩書房,1992
(22)猪瀬 直樹『ミカドの肖像』小学館,1986
(23)猪瀬 直樹『土地の神話』小学館,1988
(24)越沢 明『東京の都市計画』岩波新書,1991
(25)陣内 秀信『東京の空間人類学』筑摩書房,1985
(26)藤森 照信『明治の東京計画』岩波書店,1984(同時代ライブラリー,1990)
文献(21)は、通常の都市計画史と視点を変えて、提案されたが実現されなかった東京に関わる様々な計画を取り上げ、その評価を試みたもの。東京にいかにプランナーが関わってきているかを知ることができる。
膨大な資料を渉猟し、新事実を発掘したノンフィクションライターによる書が文献(22)、(23)。文献(22)西武グループがいかに不動産を取得して きたか、文献(23)は東急グループが田園調布をはじめとして様々な形で関わってきたまちづくりを多面的に解明していて興味深い。
江戸・東京は都市史・計画史の面からも魅力的な空間である。文献(24)は東京に都市計画がなかったとの俗説に対して、実は数多くのすぐれた都市計画のストックがあったことを示し、現在の都市計画が歴史的遺産を軽視していることを批判している。
文献(25)は文献(26)とともに、都市史・計画史における江戸、東京ブームのきっかけをつくった本。現在の東京の都市の中に江戸の都市構造がどのよ うに埋め込まれ活用されているか、都市をテキストとして魅力的に読み解く方法を示している。都市の歴史や構造に想像力を働かせながら歩くことの楽しみを紹 介している本。
文献(26)は明治の東京の都市空間形成に大きく与った4つのプロジェクトを取り上げて、その功罪を綿密に検証し、江戸の封建的都市構造を明治の東京はどう乗り越えたかを示している。
4.雑誌
まずあげられるのは、都市計画学会をはじめとする関連学会の雑誌があげられる。
都市計画学会の季刊誌『都市計画』及び『都市計画論文集』は、都市計画の関連研究にアプローチするためには、まずアクセスすべき雑誌であろう。といって も、すべての論文に目を通すのは、無理だし、意味もない。自分の研究関心に応じて、探索するという使い方が適切だろう。『都市計画』の方の時々の特集号 は、一応学会の関心動向を知る上で、ざっと目を通し、自分の関心を引くところは精読するといった使い方もある。
他の学会系の雑誌も同様の活用の仕方があげられる。建築学会では『建築雑誌』(編集委員会がかわるごとに結構編集スタイルがかわって、おもしろい記事が 掲げられることもある。編集委員会の個性が豊かである。)と『建築学会論文集計画系』がある。日本不動産学会の『不動産学会誌』、都市住宅学会の『都市住 宅』、農村計画学会の『農村計画』、計画行政学会『計画行政』等があげられる。筆者は、普段あまり見ていないが土木学会の諸雑誌も研究テーマによっては有 用であろう。
学会誌以外にも、大学で刊行している紀要の類にも有益なものがある。中でも、都立大学都市研究所の『総合都市研究』は密度の高い論文が多い。
学会系の雑誌がややアカデミックな話題がおおいの比し、より実務的な情報や、時事的な話題を扱っている各種機関刊行の以下のような雑誌がある。
『新都市』(戦前に刊行されていた『都市公論』を引き継いで戦後刊行された伝統ある雑誌で、建設省都市土木系の記事が多い)、『住宅』(建設省住宅局系 の記事が多く、政府の住宅・住環境政策の動向を知る上で有用)、『都市問題』(後藤新平が創設した市政調査会刊行の伝統ある雑誌で、地方自治の問題も多く 扱っている)、『都市問題研究』(大阪の伝統ある雑誌で、毎月テーマを設定した記事が掲載されている)、『地域開発』(日本地域開発センター刊行の雑誌、 地域計画、国土計画的話題も扱っている)、『産業立地』(工業立地センター刊行の雑誌で、通産省系の政策情報が掲載されている)、『すまいろん』(住宅総 合研究所刊行の季刊誌、住宅・住環境のトピックを扱っている。また、この研究所が助成している研究をとりまとめた年報が刊行されており、この分野の研究の 動向を知るのに便利)、『群居』(布野修司を編集長とする個性あふれる季刊誌。草の根型まちづくり、住宅政策をよく扱っている)等。
この他に、法律系の雑誌として『ジュリスト』、『法律時報』、『自治研究』等はその時々の都市計画・住宅政策、土地問題などの話題を扱っていることもあ る。特に、地方分権や新たな計画制度などについての動向を知る上で有益である。また、近年のエコロジカルなまちづくりや経験の話題に焦点を絞った新しい雑 誌として『BIO-CITY』、『造景』がある。
欧文系の雑誌もあまたあるが、代表的なものとしてここでは英国の”Town Planning Review”とアメリカの”American Planners Association Journal”を挙げておく。
5.やや脱線的に
都市計画が果たして強固な核を持ったアカデミズムとして成立しているかといえば、大いに疑問の点が多い。いくつかの教科書とおぼしきものがあるが、自然 科学やあるいはその方法論的基盤を物理学や数学に多く依拠している経済学などと異なり標準的な教科書が存在しないといって良いだろう。
といった点もあり、都市計画の理論や計画方法論を考えていく上でも、広く隣接分野の言語や考え方になじんでおく必要性は大きい。
経済学の分野では土地・住宅問題については最近多くの経済学者が発言している。オピニオンリーダーとしては岩田規久男の一連の次のような著作があげられる。
宇沢弘文編の一連の著作も経済学者達の都市観を知る上で有益だ。さしあたり、次を挙げておく。
宇沢弘文・堀内行蔵編,1992『最適都市を考える』東大出版会、宇沢弘文・高木郁朗編,1992『市場・公共・人間』第一書林、宇沢弘文・茂木愛一郎編『社会的共通資本』東大出版会
といっても、これらの著作所収の論者の主張は一様ではなく、相当異なっている。
東京一極集中問題に関連しては、八田・大野の間で論争が行われていたがいくつかの論点ですれ違い状況だ。社会科学の領域では、複数の論理を主張し、正当化できる事実が複数存在しているということであろうか。
偏狭(?)な市場経済至上主義を批判の矢を放っているグループの著作に示唆を受ける点が多い。とりわけ雑誌『発言者』の主幹である西部邁やそのグループ の主張には教えられる点が多い。といっても、もちろん彼らの主張に満腔の賛意を示すということではないが。
西部の多数の著作の中でも、彼の処女作である『ソシオエココノミクス』(中央公論社)は、きわめて密度の高い論理で新古典派経済学の偏狭性を鋭く批判し ており、いま読み返してみても経済学を内在的に乗り越えようという姿勢は清々しい。また、ハンディであるが、現在の学問の袋小路状況を的確に指摘し、突破 の方向を示した『新学問論』(講談社現代新書)も 示唆する点が多い。
西部シューレの佐伯啓思、間宮陽介の一連の著作も示唆に富む点が多い。佐伯にも数多くの著作があるが、ハンディなものとして『現代社会論』1995(講 談社学術文庫)を挙げておく。間宮には上記の宇沢編の著作の中に、示唆深い都市論が多く、市場の暴走と計画教条主義に偏しない歴史的存在としての都市をど う守り、どう育てて行くかの想いが説得力を持って説かれている。
新古典派経済学を鋭く批判し、一方で戦後日本が進め、現在アジア新興工業国が進めようとしている開発主義を評価している村上泰亮の次の著作は、大部であるが、読みごたえがあり、しかも都市開発、地域開発にとっても考えさせる点の多い著作だ。
・村上泰亮,1992『反古典の政治経済学 上・下』中央公論社
都市論を語る上では、歴史学や社会学の分野の知見に学ぶ点が多い。
日本の歴史の読み替えを精力的に説いている網野義彦の一連の著作や、ヨーロッパ中世都市の世界を説きながら現代に通底する我々の価値観がどう形成されてきて、どう転換してきたかを説く阿部謹也の一連の著作は都市を考える点で重要である。
手軽な入門書として、網野義彦『日本の歴史を読みなおす』『続・日本の歴史を読みなおす』(筑摩書房)、阿部謹也『中世の窓から』(朝日新聞)『自分の中に歴史を読む』(筑摩書房)『ヨーロッパ中世の宇宙観』(講談社学術文庫)を挙げておく。
社会学の分野では都市社会学の専門一分科があり、膨大な著作群ある。そういった専門の都市社会学の動向には無知な素人からみて、興味深くよんだ、いくつかの社会学者の著作をランダムにガイドしておこう。
盛り場としての都市がどう生成発展してきたかを興味深く説いた吉見俊哉の『都市のドラマトゥルギー』(弘文堂)、都市のメディア空間としての博覧会の政 治経済的意味を読み解いた同じく吉見俊哉の『博覧会の政治学』(中公新書)は変容する都市文化空間や情報社会における都市問題を考える上で示唆に富む。
近代社会をリードしてきた機能主義の考え方が色褪せ、新たな生活世界、意味充実した生活世界が求められていることを鋭く説いた今田の次の著作も示唆深い。今田高俊『自己組織性』(創文社)、『ポストモダンの脱構築』(中公新書)
現代社会の世相やトレンドをユニークな視点で解き明かす、論客、上野千鶴子の『増補<私>探しゲーム』1992(ちくま学芸文庫)は現代都市の動向を考える上で、新鮮な視点を提供してくれる。
この他、数え上げればきりがないので、ここら辺で打ち止めにして、小生の好きな都市論がらみのエッセーを書いている人の名前を挙げておく。興味のある人は、その人の著書をひもとかれるとよい。
・川本三郎(街歩きをしながらふらりと入った食堂でビールを美味しそうに飲む情景をこれほどうまく書ける人は知らない。現代版の永井荷風の日和下駄を描く人)
・玉村豊男(長野県で農業をおこない、料理をつくり、エッセー、絵、グルメ、旅と現代版高等遊民的理想像の人?。文章は職人芸。)
・藤森照信(元祖、建築探偵の蘊蓄はすごい)
・山崎正和・丸谷才一(それぞれのエッセーも面白いが、二人による日本の町についての対談はとても興味深い。この二人の紹介によって、例えば四国の宇和島に是非訪れてみたい気になる)
・宮脇壇(本業の建築でだけでなく、この人の旅のエッセーも秀逸。都心居住にこだわる人。)
・加藤秀俊(きわめて平易に、しかし内容的には高度なことを説く社会学者。この人のアメリカ、イギリスの小さな町からの著書は、コミュニティとはどういうものかについて考えさせてくれる優れたレポート)
・オギュンスト・ベルク、サイデンステッカー等のジャパノロジストの日本都市論についての論究は、我々の気付かない視点からの日本の都市の特質を教えてくれる。